君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
息を弾ませながら、無心になって歩くこと30分。雪道を歩くのは普段どおりとはいかず、思ったよりも時間がかかってしまう。
だけど、敏生は構わなかった。結乃へと続く道ならば、もっと険しくても、どんな道でも乗り越えていけると思った。
結乃が住むマンションの近くまで来て、スマホの地図を表示させて確認する。辺りを見回して、マンションを見つけると、そちらに向かって再び歩き出す。
…すると、そのマンションの前に、人影が見えた。遠く、きちんと確認できなくても、それは結乃だと敏生は確信した。
雪が降りしきる中、結乃は外に出てきて待ってくれていた。少し早足で敏生が歩み寄ると、結乃も敏生に気がついて歩み寄ってくる。
「メールもらってビックリして…、こんな雪の中なのに…」
結乃は、頭に肩に雪の降り積もる敏生の姿を見て、心配そうな表情で言葉を潰えさせた。
「こんなに遅くなって、迷惑かなとは思ったんだけど…、どうしても今日、これを渡したくて…」
雪がかからないように大切に抱えて来たペーパーバッグを、そう言いながら結乃に手渡す。その中に込められている想いと一緒に…。