君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)
知り合いにさえなれれば、「どうにかなる」…と思っていた自分は、なんて安易だったんだ…と、結乃は思ってしまう。
――こっちから、芹沢くんにメールを送ってみる……?
そんな冒険が、結乃の頭をかすめる。
――いやいや、そんな。〝彼女〟でもないのに、気安くメールなんてできないよ……。
そもそもメールを送るにしても、どんな内容を書けばいいのか全然見当もつかない。それほど結乃にとって敏生は、崇高で遠い存在の人だった。
積極的な女子だったならば、自分からデートの誘いをかけたり、何かしら関係を進展させる手立てを打つのかもしれないが、奥手な上に不器用な結乃には、そんな思考回路さえ持ち得なかった。
でも、このままだと、せっかくバレンタインデーに勇気を出したことが、無駄になってしまう。そして、また同じ気持ちで来年のバレンタインデーを迎え、同じことの繰り返しになってしまう。
社内で敏生と話ができる偶然を待っていても、その〝偶然〟はいつ来てくれるのか分からない。仮に話ができたとしても、そこから今以上の関係になれるとは限らない。