君とゆっくり恋をする。Ⅰ【第1話 〜第5話】(短編の連作です)



そんな中、少しだけラッキーなことがあった。営業1課の給湯設備のリニューアルのこと。結乃もこの件のプロジェクトに関わる一員にさせてもらっていたので、何かと用事を見つけたり、〝お使い〟も率先して買って出て、以前よりは営業1課へ行く機会が持てていた。


この日も、工事の日程についての書類を持って、営業1課に足を運んでいた時のことだった。


「こんなくだらない企画を持って来るんなら、初めから人を巻き込まないでほしいですね!!こっちだって、暇じゃないんだから!!」

「……は!?くだらないとは、何よ!!」

「くだらないから、くだらないって言ってるんです。『商品開発部のエース』が聞いて呆れますね」


結乃が歩いていたすぐ横、営業1課に隣接するミーティングブースの方から、男女の激しい言葉の応酬が聞こえてきた。言葉の激しさよりも、響いてくる声に結乃は反応してしまう。……そう、男の方の声は敏生に間違いなかった。


「商品開発部のエースって言われている篠田さんが、芹沢くんの意見を聞いて新しい企画を立ててるみたいなんだけどね?なんでも、エース同士タッグを組んで、〝社長賞〟狙ってるらしいよ?」


結乃と面識のあるオバサン事務員が、結乃に耳打ちして事情を教えてくれる。


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