言わなくても気づいてよ…!
遭遇
彼女に髪を切られてから何日かたった。
十河に言われたとおり、世間的にはこの髪型の俺は評判が良かった。
髪型が変わっただけで、これほどまでに反応が違うのかと驚く。
少しだけ自惚れている自分がいた。
「こちらが青井蘭ちゃん。」
大学内にあるカフェに愛華ちゃんから呼び出された俺と十河。
今度、グループ論文があって、男女混合で組まないとならないらしい。
そこで、俺と十河、愛華ちゃんと同じ科の彼女
、というグループが出来た。
「よろしくね。」
十河が慣れた感じで挨拶をする。
並んで座る十河が肘で俺をつつき挨拶をするように促す。
「…よろしくお願いします。」
同い年の青井さんに思わず敬語がでた。
十河と愛華ちゃんが吹き出した。
「よろしくお願いします!」
彼女はそんな二人とは違う笑顔でそう言った。
窓際の席から光が刺さって彼女の茶色の髪が透き通って見える。
毛先で丸まる軽そうな髪は胸より長い。
彼女とは真逆な髪型だなとふと思った。
「じゃ、…本題に行こうか。」
十河が張り切って仕切り始める。
まずは何の議題にするか?
どのように話を膨らませていくか?、そしてどう展開して締めくくるか?
口下手な俺は十河が話す内容に、小さくうなずき、大したアイディアもないままでいた。
その点、十河はポンポンと話を進められて感心すらする。
頼んでいたアイスコーヒーを飲みながら、ふと前を向いた。
青井さんと目が合い、彼女が恥ずかしそうに笑うから、俺もなんだか恥ずかしくなる。
変な空気を感じたのか、十河が突然大きな声を上げる。
「そうだ!長くなるかもしれないから、この後、理斗んちでやろうぜ?」
「えぇっ!?」
「いいだろ!?こっから近いし、俺の部屋は愛華以外女人禁制だからさ~(笑)」
一瞬、部屋が散らかってないことを想像する。
まぁ、大丈夫だとは思うけど…
愛華ちゃんが十河にナイスアイディアと言うように、親指を立てた。
青井さんを見ると目がキラキラしていた。
「…まぁ、良いけど。」
「よし、決まり!行こうぜ!」
もろもろやらなきゃならないことを片づけてから、駅で待ち合わせて自宅までの距離を案内する。
「青井さんって堅苦しいから、青井ちゃんで良いかな?」
十河が歩きながらそう言った。
「私もその方が嬉しい。」
青井さんがそう言うと、俺の方も振り返る。
「袴田君も、ねっ?」
「うっ、うん。わかった。」
駅から10分の道のりで、徐々に二組のカップルに分かれていき、その間も少しずつ広がっていた。
十河と愛華ちゃんはもちろんつき合ってあるわけだから、その空気感がでるのは仕方ない。
でも、俺と青井ちゃんは今日会ったばかりで話が弾むはずもない。
「…どうして、髪、切っちゃったの?」
沈黙を破ったのは、青井ちゃんだった。
「いや…切りたくて切ったというわけじゃないんだけど…」
話が振りやすいのか、やはり髪型の話題が多い。
「でも、私は前の袴田君でも良かったんだけど…。」
青井ちゃんが小さい声で言うから、何を言ったのかよく聞き取れなかった。
「青井ちゃんはパーマかけてるの?」
十河が高校の時に言っていた。
(女の子と会話が弾まなかったら、見た目をとりあえず誉めろ)って。
誉めるまでの技量はないから、とりあえず話だけ振ってみる。
「ううん。これね、天然なの。雨の日は特に大変なんだよ。」
「そうなんだ。俺も朝は寝癖がひどくて…直すのに一苦労だよ。」
そう言うと二人で笑った。
さすが十河のアドバイス。
多少でも、会話が弾んだ。
そんなことを言ってる間に自宅が見えてきた。
「そこ、俺んち。」
青井ちゃんにも、後ろを歩く二人にも聞こえるように、振り返りながらそう言うと思わぬ人の姿も目に入った。
彼女だった。
中学の頃から話さなくなった俺としては、スルーするのがベストだと思った。
でも、つい最近、家庭教師になったわけで…
話しかけて良いものか分からず固まる俺に、彼女はいつも以上に怖い顔で、こちらを睨んでいる。
「…誰?」
隣にいた青井ちゃんが俺の服の裾を引っ張りながら聞いてくる。
「あぁ、隣の家の子。」
十河が彼女の方を振り返る。
この子が噂の?と目で合図する。
わかるかわからないかの反応で目配せした。
「りー兄、今日、カテカョの日だよ。」
懐かしい呼び方に戸惑い、驚いて固まった。
昔は“りー兄”と呼ばれていた。
人なつっこく笑いながら、俺の側から離れずにいた彼女を思いだした。
「お~い。理斗~?」
十河が俺を放心状態から引きづり出す。
「ごめん。」
一度、十河たちに謝って、彼女の方にむき直す。
「りーママに今日お願いしてあったのに!聞いてないの?」
何も知らないと言うまでもなく、俺が話す前に彼女はそう切り出した。
「何も聞いてないよ。悪いけど、友達も来てるし、今日は…」
彼女の家庭教師を断ろうとした瞬間だった。
「ダメ!私だって予定があるし、私の方が先約なんだから!」
すごい形相で、彼女は怒鳴りつけた。
そんな彼女を見ていたら、十河も他の皆も引いてしまってタジタジだった。
「ごめんね、袴田君。突然押し掛けちゃったし、今日は私たちが帰るよ。ねっ、愛華。佐瀬君。」
大人な対応をしてくれたのは青井ちゃんだった。
「ごめんね、青井ちゃん。二人も。」
青井ちゃんは笑顔で首を振った。
「また学校でね。行こう、2人とも。」
そう言うと、青井ちゃんは何か言いたげな愛華ちゃんを制しながら、来た道を戻っていった。
三人が見えなくなっていくと、怒った彼女の顔が徐々に変化していく。
「…着替えるから、後10分したらへやにきて。」
うつむきながら、そう言うと急ぎ足で彼女の家に消えた。
十河に言われたとおり、世間的にはこの髪型の俺は評判が良かった。
髪型が変わっただけで、これほどまでに反応が違うのかと驚く。
少しだけ自惚れている自分がいた。
「こちらが青井蘭ちゃん。」
大学内にあるカフェに愛華ちゃんから呼び出された俺と十河。
今度、グループ論文があって、男女混合で組まないとならないらしい。
そこで、俺と十河、愛華ちゃんと同じ科の彼女
、というグループが出来た。
「よろしくね。」
十河が慣れた感じで挨拶をする。
並んで座る十河が肘で俺をつつき挨拶をするように促す。
「…よろしくお願いします。」
同い年の青井さんに思わず敬語がでた。
十河と愛華ちゃんが吹き出した。
「よろしくお願いします!」
彼女はそんな二人とは違う笑顔でそう言った。
窓際の席から光が刺さって彼女の茶色の髪が透き通って見える。
毛先で丸まる軽そうな髪は胸より長い。
彼女とは真逆な髪型だなとふと思った。
「じゃ、…本題に行こうか。」
十河が張り切って仕切り始める。
まずは何の議題にするか?
どのように話を膨らませていくか?、そしてどう展開して締めくくるか?
口下手な俺は十河が話す内容に、小さくうなずき、大したアイディアもないままでいた。
その点、十河はポンポンと話を進められて感心すらする。
頼んでいたアイスコーヒーを飲みながら、ふと前を向いた。
青井さんと目が合い、彼女が恥ずかしそうに笑うから、俺もなんだか恥ずかしくなる。
変な空気を感じたのか、十河が突然大きな声を上げる。
「そうだ!長くなるかもしれないから、この後、理斗んちでやろうぜ?」
「えぇっ!?」
「いいだろ!?こっから近いし、俺の部屋は愛華以外女人禁制だからさ~(笑)」
一瞬、部屋が散らかってないことを想像する。
まぁ、大丈夫だとは思うけど…
愛華ちゃんが十河にナイスアイディアと言うように、親指を立てた。
青井さんを見ると目がキラキラしていた。
「…まぁ、良いけど。」
「よし、決まり!行こうぜ!」
もろもろやらなきゃならないことを片づけてから、駅で待ち合わせて自宅までの距離を案内する。
「青井さんって堅苦しいから、青井ちゃんで良いかな?」
十河が歩きながらそう言った。
「私もその方が嬉しい。」
青井さんがそう言うと、俺の方も振り返る。
「袴田君も、ねっ?」
「うっ、うん。わかった。」
駅から10分の道のりで、徐々に二組のカップルに分かれていき、その間も少しずつ広がっていた。
十河と愛華ちゃんはもちろんつき合ってあるわけだから、その空気感がでるのは仕方ない。
でも、俺と青井ちゃんは今日会ったばかりで話が弾むはずもない。
「…どうして、髪、切っちゃったの?」
沈黙を破ったのは、青井ちゃんだった。
「いや…切りたくて切ったというわけじゃないんだけど…」
話が振りやすいのか、やはり髪型の話題が多い。
「でも、私は前の袴田君でも良かったんだけど…。」
青井ちゃんが小さい声で言うから、何を言ったのかよく聞き取れなかった。
「青井ちゃんはパーマかけてるの?」
十河が高校の時に言っていた。
(女の子と会話が弾まなかったら、見た目をとりあえず誉めろ)って。
誉めるまでの技量はないから、とりあえず話だけ振ってみる。
「ううん。これね、天然なの。雨の日は特に大変なんだよ。」
「そうなんだ。俺も朝は寝癖がひどくて…直すのに一苦労だよ。」
そう言うと二人で笑った。
さすが十河のアドバイス。
多少でも、会話が弾んだ。
そんなことを言ってる間に自宅が見えてきた。
「そこ、俺んち。」
青井ちゃんにも、後ろを歩く二人にも聞こえるように、振り返りながらそう言うと思わぬ人の姿も目に入った。
彼女だった。
中学の頃から話さなくなった俺としては、スルーするのがベストだと思った。
でも、つい最近、家庭教師になったわけで…
話しかけて良いものか分からず固まる俺に、彼女はいつも以上に怖い顔で、こちらを睨んでいる。
「…誰?」
隣にいた青井ちゃんが俺の服の裾を引っ張りながら聞いてくる。
「あぁ、隣の家の子。」
十河が彼女の方を振り返る。
この子が噂の?と目で合図する。
わかるかわからないかの反応で目配せした。
「りー兄、今日、カテカョの日だよ。」
懐かしい呼び方に戸惑い、驚いて固まった。
昔は“りー兄”と呼ばれていた。
人なつっこく笑いながら、俺の側から離れずにいた彼女を思いだした。
「お~い。理斗~?」
十河が俺を放心状態から引きづり出す。
「ごめん。」
一度、十河たちに謝って、彼女の方にむき直す。
「りーママに今日お願いしてあったのに!聞いてないの?」
何も知らないと言うまでもなく、俺が話す前に彼女はそう切り出した。
「何も聞いてないよ。悪いけど、友達も来てるし、今日は…」
彼女の家庭教師を断ろうとした瞬間だった。
「ダメ!私だって予定があるし、私の方が先約なんだから!」
すごい形相で、彼女は怒鳴りつけた。
そんな彼女を見ていたら、十河も他の皆も引いてしまってタジタジだった。
「ごめんね、袴田君。突然押し掛けちゃったし、今日は私たちが帰るよ。ねっ、愛華。佐瀬君。」
大人な対応をしてくれたのは青井ちゃんだった。
「ごめんね、青井ちゃん。二人も。」
青井ちゃんは笑顔で首を振った。
「また学校でね。行こう、2人とも。」
そう言うと、青井ちゃんは何か言いたげな愛華ちゃんを制しながら、来た道を戻っていった。
三人が見えなくなっていくと、怒った彼女の顔が徐々に変化していく。
「…着替えるから、後10分したらへやにきて。」
うつむきながら、そう言うと急ぎ足で彼女の家に消えた。