言わなくても気づいてよ…!
中学時代
あれは、俺が中学の頃。
彼女はまだ小学生だった。
その頃から、近所で評判の美少女で…
そんな彼女が俺にだけは心を開いてくれていて、本当に兄弟のように過ごしていた。

小学生の頃から男女の恋愛関係の話は出ていたけど、中学にあがるとよりそう言う話は増えていった。
俺にはそんな話は無縁で、絡むのは男ばかりだった。

さすがに学校が小中で違うから、俺が彼女と幼なじみだとか、兄弟のようにつきあいが深いとか、そう言う話は出なかった。

それが彼女が中学に入学した途端、俺は一瞬で有名になった。
あの美少女の隣にいる奴、と言う長いあだ名と共に。

俺たちが通っていた中学は、三校の小学校の生徒が合わさる。
知らない奴の方が多い。
毎回彼女はこういうタイミングを嫌っていた。
言われてみれば、中学でも人見知りは治ってなかった。

「りー兄!!」
俺の姿を少しでも見かけると、どこからそんなに大きな声が出たのかと思うくらいの声で呼び止められた。
その都度、あいつは何なんだと白い目で見られた。

美少女の彼女とダサい俺、二人の姿を見る度に、俺達がどういう関係なのかとか、噂が広がった。

終いには本当の兄弟なのに、イケない関係だとまで噂された。

そんなある日のことだった。
たまたまお互いの朝の登校時間がかぶり、同じタイミングで家を出たとき、彼女は嬉しそうに俺の隣を歩きながら学校まで付いてきた。

もうすぐ学校と言うところまで来て、彼女は叫んだ。
「あっ!英語の辞書忘れた~」
その当時の彼女の英語の先生は忘れ物にうるさく、厳しい先生だった。

「俺、学校に置きっぱなしにしてあるから貸すよ。」
子犬のようにニコニコしながら笑う彼女。
「やった~。ラッキー!」

一年が三年の教室に来るのは辛いかもと思い、彼女に辞書を持って行った俺は、クラスに帰ると男子にからかわれた。

「ひゅー、朝からやるね~!仲良く登校してきたと思ったら、それだけじゃ足りず教室まで会いに行っちゃうわけですか!?」
この手の冷やかしはだいぶ慣れていた。
ハイハイとでとも言う感じで、相手にもせずに俺は自分の席に着いた。

「おい、無視すんなよ~!」
絡んできたクラスメートは、俺の席まで来て肩を引っ張った。
「やめろよ。」
俺は冷静に反論した。

「本当は付き合ってんだろ?イチャイチャしやがって、見せつけたいんだろ?」
それでも、ヒートアップしていく友人を止められずに、さすがに苛ついた俺も頭に血が上っていた。
強く机をたたきつけ、立ち上がった。

「違うって言ってんだろ!?あいつは妹みたいな存在で、それ以上でも以下でもないんだよ!」
それまでに出したことのない位の声で反論していた。

地味に過ごしてきた俺が、思いの外反論してきたことで、辺りは静まり返っていた。

「…じ、じゃ、その証拠に俺のことをあの子に紹介しろよ!」
どさくさに紛れて何を言い出すかと思えばと、俺はため息を付いた。

「それで気が済むなら、紹介するよ。」
俺は静かに、またいすに腰を落とした。
彼は大きくガッツポーズをして見せると、静まりかえっていた教室がざわつき始める。

彼を羨ましがる声や、女子達の冷ややかなささやき声。
何もかもがどうでもよかった。

お昼休みになったと同時に、俺のクラスの教室に歓声がわいた。

彼女が女の子の友人を連れ、辞書を返しにきていた。

朝の話の流れを知らない彼女は、異様なまでの雰囲気にのまれていた。

戸惑う彼女が、あまり大きくない声で俺を呼ぶ。
「りー兄…あのっ…辞書…」
心の中で今日じゃなくてもいいのにと思っていた。

仕方なく俺は教室から出て、廊下にいる彼女の所に行った。
辞書を受け取ると小声でお礼を言う。
「ありがと。」
「うん、じゃぁね。」

異様な空気を感じていたのか彼女はすぐに戻ろうとした。
彼女がくるっと方向転換したときに、彼は彼女の行く先を阻むように立ち、俺に目配せする。

「あっあの…!?」
彼女の戸惑う声が聞こえて、俺はそれの声にかぶせるように声をかけた。
「俺の友達の野上君、花菜と仲良くなりたいんだって。仲良くしてやって。」

自分でも驚くくらい冷たい声だったと思う。
彼女は俺に背を向けたまま、動かずにいた。

「野上で~す!よろしくね!」
人見知りの彼女の肩が小さくふるえているように見えた。
でも、俺は動かなかった。

「理斗がさ、皆に高林さんは妹的存在だから、変に誤解されると困るって言うんだよ。だから、理斗以外の男友達を作るのも良いと思うんだよね~、俺とか?」

そんなこと言ってないと、心の中では反論していた。

「まぁ、高林さんが良ければ、付きあちゃっても良いんだけど~!」
調子に乗って彼はそんなことまで口にした。
周りはからかいの歓声を上げた。

彼女が俯いているのが後ろから見ていても分かる。
庇ってやりたくても、足が動かない。
ここで動いたら、朝のやりとりが無駄になる。


「…いいですよ。まずは、友達からお願いします。」
彼女の言葉に驚いた。
より大きくなる歓声。
彼はそれ以上に飛び上がって喜びを表した。

驚きの隠せない俺は呆然とたちすくんていると、彼女が振り返り笑顔で言った。
「りー兄、迷惑掛けちゃったみたいでゴメンね。今度から気を付けてるから。」

それだけ言うと、彼女は友達の手をつかみ、逃げるように去っていった。

その一件があってからは俺と彼女が二人でいるとこも、話すことも何もなくなった。
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