失礼男の攻略法
新人時代、落ち込んでいた私を励ますためにと誘ってくれて2人で飲んでいた時に、勘違いした兄が乱入した。
「あんた既婚者だろ。何考えてんだよ」
田尻先生の左手の薬指に輝く指輪を見て掴みかからん勢いだった。そんな失礼な兄にも穏やかな田尻先生は落ち着いて説明をして下さり、誤解は解けたものの、そのせいで私の知られたくない素性を田尻先生に知られる羽目になってしまったのだ。
“山岸隆太郎”
名刺を出しながら名乗った兄に、びっくり顔の田尻先生。
観念して「兄なんです」と紹介すると
「そうなんだ。山岸慎太郎氏がひた隠しにしてる深窓の令嬢って、千秋先生のこと?」
言い当てられてしまった事実に頷いていると、あまり話したがらない私に代わって兄が口を開く。
「うちの親、離婚してまして。千秋は母の姓、名乗ってるんですよ。山岸の娘って言われるのが嫌みたいで」
言いながら優しく頭を撫でてくれるのは昔からかわらない。