失礼男の攻略法
はぁ―――――――。
まだ明けきらない空を見上げながら、昨日のことを思い出してため息が漏れる。
なんでこんなことになったんだろう。
あの後。
涙で視界が揺れているのに、その先に見える失礼男の瞳が優しくて、その優しさに触れたくって、思わず手を伸ばしてしまった。
だけど、その手が届くことはなくって。
ふふっと笑みを浮かべた失礼男は、手に取ったグラスを涙がこぼれる私の頬にギュッと押し付けたのだ。その感触の冷たさのお陰で、こぼれていた涙も止まったし、どこかにいってしまっていた理性も一瞬で私のもとに戻ってきてくれた。
「うわっ、ごめんなさい、私」
醜態を見せてしまったことへの恥ずかしさと申し訳なさが、ぶわっと全身を駆け巡って、とりあえずみっともない顔を隠しながら、そんな言葉をしどろもどろになりながら吐き出すしかできなくって。
すると失礼男は、落ち着いてというように、ポンポンと私の頭に手を置いたかと思うと、にっこりと笑みを浮かべて
「たまにはさ、何者でもない時間を過ごしてもいいんじゃない」
って言ったのだ。