不知火の姫
こんな状況なのに、葉月は几帳面に私の送り迎えをしてくれる。

でも学園まで行くのに、彼は授業には出ていないみたいだ。屋上で放課後までずっと、時間を潰しているようだった。

葉月と蓮さまは同じクラスだったから、教室へ行くとどうしても空席に気が付いてしまう。それが嫌なのかもしれない。



その日も私は、授業が終わると屋上へ行った。

志貴も一緒に付いてくるって言ったけど、今の学園にはもう敵はいない。それに屋上なんて教室からすぐだ。渋る彼を置いて、一人で来た。

屋上ではやっぱり、葉月が一人でいた。

彼は真ん中で寝転んで、ぼんやりと空を眺めているみたいだった。


近くまで行くと彼の頭の傍に、カフェテリアで買った飲み物のカップが置いてあった。

キャラメルマキアート……

甘党の蓮さまが、いつもシロップを倍にして飲んでいたものだ。そんな甘いのよく飲めるな、って葉月はいつも蓮さまにからかうように言ってた。




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