不知火の姫


「…………葉月」


声を掛けたが、彼は身動き一つしなかった。睨むように、でも悲しそうに、青い空を見ている。

私も隣に座った。


「…………鈴」

「何……?」

「お前は、ずっとこんな痛みに耐えてきたんだな……」


裏切られた、心の痛み。

それは私もよく知っている。

でも、心の底から信じていた親友に裏切られた痛みは、私は知らない。私には葉月と蓮さまみたいな仲間はいなかったから。


今の葉月の方が、私が感じて来た痛みより、きっとずっと痛い……





「……すっげぇ…………きついな………………」





葉月はそう呟くと、頭に敷いていた腕で顔を隠した。

私は何も言えず、隣に座っているしか出来なかった。





どんなに落ち込んでいても、葉月は毎日ファントムへ通った。鬼焔の情報を得る為と、動揺している配下の人たちを落ち着ける為に。

本当は、葉月が一番不安定なのに。

それでも、総長として不知火をまとめなければならない。葉月は随分無理をしているように見えた。




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