不知火の姫


週末の土曜日。その日は朝から雨だった。

ファントムへ来ないかと志貴が迎えに来てくれたけど、部屋にいる葉月が心配なので断った。

私は時々志貴や光流さんとファントムへ行っていたが、葉月のいないそこは何だか不知火じゃないみたいで。今までみたいに長居をする事は無かった。


――――このままじゃ、ダメだ。


不知火のみんなは、葉月を待っている。

鬼焔に対抗する為にも、また前のような不知火にならなくちゃいけないんだ。それは悲しい事だけど……

とりあえず、私は葉月と話をしようと思った。私に何が言えるのか分からないけど、少しでも役に立ちたかった。


キッチンで、自分と葉月の二人分のお茶を入れる事にした。彼がどんなお茶が好きなのか分からなかったけど、とりあえず無難に緑茶。これと何かお茶菓子を持って部屋へ行けば、中に入れてくれるかもしれない。

家政婦さんたちは別の仕事をしていてキッチンにはいなかったので、何処に何があるのか分からなくて。お茶菓子のお煎餅を見つけるのに随分時間がかかってしまった。

それと入れたお茶をお盆に乗せて、キッチンを出ようとすると――――




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