不知火の姫
「――――葉月の部屋へ行くの?」
キッチンの出入り口に、美乃利さんが立っていた。
あれ以来――――階段から落とされてから、会うのは初めてだった。無意識に、体が緊張する。
「葉月はそのお煎餅より、こっちのおかきの方が好きよ」
美乃利さんはそう言いながら私の横をすり抜けると、棚の中からおかきを取り出す。そしてお盆の上のお煎餅と取り換えてくれた。
何だか、優しい……
でもやっぱり、お酒の匂いがする。
「随分と、葉月と仲良くなったのね」
美乃利さんはにっこりと笑いながら言った。別に私を責めている感じも無い。
あの夜の事は夢だったのかと錯覚してしまいそうだ。
「ねえ、もしかして鈴ちゃんは……葉月の事が好きになっちゃった?」
まるで女子高生が恋バナをするみたいに、楽しそうに話してくる美乃利さん。いきなりのその問いかけに、私は顔が赤くなってしまったのを感じた。