不知火の姫
「そ、そんなの……うそ、です…………」
震える声でそう言ったけど、逆に美乃利さんは面白そうに声を上げて笑った。
「信じられないのも無理はないけど。でも、よく考えてみて? どうしてあたしの主人、小鳥遊はあなたの里親になったの? その理由、知ってるのかしら」
――――小鳥遊のおじさんが、どうして私の里親になってくれたのか。
今までずっと不思議には思っていたけど、深くは考えなかった。
でも……普通に考えれば。跡取りもちゃんといるおじさんが、私の里親になる理由が無い。
そう、親子でもない限り…………
手から、お盆がするりと滑り落ちる。上に載っていた湯飲みやおかきが床に叩きつけられ、ガチャンと凄い音がした。
でも、私はその場に固まったまま、動けなかった。
「嘘だと思うなら、主人に聞いてみるのね。答えてくれるかどうかは、分からないけど。浮気で出来た子供なんて、あの人には汚点でしかないもの」
嘲るように高らかに笑いながら、美乃利さんはキッチンを出て行った。