不知火の姫
「やっぱり、鈴ちゃんだ。どうしたの? こんな所で……それにずぶ濡れじゃないか」
前と同じように話しかけてくれた蓮さまの顔を見たとたん、何だかホッとして。涙がまた溢れてしまった。
「……泣いてるの?」
「あ……す、すみません…………」
私は立ち上がると、蓮さまから逃げようとした。
だって、今は蓮さまはもう不知火じゃないから……
「待って、鈴ちゃん!」
彼は慌てて私の腕を掴んだ。
「こんな雨で傘も無いのに、一人でなんて帰せない。送って行くよ」
蓮さまは、いつも優しい…………
でも私は、首を横に振った。今はまだ、帰りたくなかった。
「帰りたく、無い?」
帰りたいけど、帰れない。私は蓮さまの問いに、黙って俯く事しか出来なかった。
「じゃあ、うちへおいで。すぐそこだから。こんなに体も冷えちゃって……温まらないと風邪をひくよ」
蓮さまは着ていた羽織を優しく私に掛けてくれた。
◇◇◇