不知火の姫
昨夜あんな事があったのに、葉月は変わらなかった。変わらず私に接してくれる。


それが嬉しいけど、辛い……


私の事は『妹』だと、もう割り切ってしまったのかもしれない。でも私は……


「…………ファントムへは、行かない。それとね、葉月……」


私はきっと葉月から離れた方がいいんだ。

じゃないと私は、葉月を割り切れない……


「――――私、不知火の姫を辞める」


もう、みんなにも会わない。

仕方が無いんだ、そう心に言い聞かせていた。

扉にそっと手を当てる。

このたった一枚の扉の向こうに、彼がいるんだ。板切れたった一枚の壁しか無いのに、私は葉月に近づけない。

それが私と葉月の距離なんだ……


「………………分かった」


葉月はそう返事をすると、その場を後にした。彼が遠退いて行く足音を、開けられないドアの前で聞いていた。





太陽もすっかり昇り、もうお昼に近くなった。突然、机に置いていた携帯が鳴った。

誰だろうと思い、画面を見ると――――




――――愛澄ちゃんだった。








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