不知火の姫


「――――電話の話、本当なの……?」


ゆるゆるとブランコを漕ぎ、ちっとも話をしてこない愛澄ちゃん。私は少しイライラして、そう聞いた。


「本当だよ。今の小田の家は養女なの。でもその前はあたし、鈴ちゃんと同じ施設にいたんだよ?」


……本当なんだ。

でも、全然覚えてない。


私がいた施設は結構人数が多くて、出たり入ったりする人も多くて。それにあそこにいた時の私は、施設の大人も子供も全員、敵だと思っていたから。

仲のいい子も一人もいなかったし、誰の名前すら憶えていなかった。


「そっかぁ、鈴ちゃんはあたしの事、覚えてないんだね。あたしはすっごい覚えてるのに……」


彼女はそう言いながら、ブランコからぴょんと飛んで降りた。


…………愛澄ちゃんは、何がしたいんだろう。

同じ施設だと言って、どうしようというんだろう。


懐かしい、施設での思い出でも話したいんだろうか。私には決して楽しい所ではなかったんだけど……

愛澄ちゃんは私の目の前まで近づくと、にっこりと笑った。




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