10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
翌日、講義を終えた私はそのまま地元の二つ隣の駅まで向かった。お店の裏口から中に入り、従業員スペースに繋がる引き戸を開いた。
すぐ目に入ったのは、デスクのパソコンを操作している店長だった。30代半ばの男性で既婚者。雰囲気はどことなく春兄に似ている。
私の面接をしてくれたのもこの店長だ。
「店長、お疲れ様です」
「お、鵜崎さん。どうしたの?」
笑うと目尻にシワができるのが特徴。同時に垂れる目元は人に安心感を与える。
「シフト書きに来ました。待っていただいてありがとうございます!」
「そうかそうか!ほれ、シフト表」
壁にかかっているボードに挟んであるシフト表を差し出す。
手帳と照らし合わせながら出勤可能なところに書き込んでいった。
「お願いします」
私のシフトを見て『だいぶ働くね〜』と笑顔を浮かべる店長。店長の話によると、ここのバイトはちょくちょく休みを挟んでそこまで長い連勤にならないようにシフトを入れている人が多いらしく、私のように6連勤とかをする人は珍しいらしい。
「今までお休みしていた分を取り返したいので!」
「そっか!いい心得だ!!」
そう言ってはにかむ店長。こういう人がお店のトップだと仕事もしやすい。
用が終わったのでお先にお邪魔しようとしたが、店長に呼び止められた。
「あ、鵜崎さん!」
「はい」
「さっき男性のお客様に鵜崎さん出勤しているか聞かれてさ。知り合い?」
その言葉に真っ先に頭をよぎった山下さんの顔。
「あ…どうでしょうか」
「さっき会計してイートインスペースに行ったからまだいると思うよ。顔だしてくれば?」
「え、いやそれは」
「あ、行くときは表から店に入ってね?私服の子がここからいきなり出て行ったらいらっしゃるお客様にびっくりされちゃうから」
あ、いやだから…!!今日はシフトを書きに来ただけだからもう帰ります!!
「じゃ、じゃあ、失礼します!お疲れ様でした!」
勢いよく頭を下げ、その場から立ち去った。裏口から外へ出てチラッと店内の様子を伺う。
…あ、いた。一番窓際に座っている山下さんの姿。
私はふと疑問を抱いた。山下さんって、たぶん春兄や木下さんと同い年だよね。平日の夕方のこの時間に私服でドーナツを食べに来ているって…仕事はしていないのかな。
山下さんって、普段は何をしている人なのだろう。
謎に包まれた山下さんの醸し出すオーラに引き寄せられるように店の扉を開いている自分がいた。
足は真っ直ぐ彼の座っている席へ。
「…お前」
私の姿を目にして鋭い目を丸くする山下さん。