10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
「こんにちは」


「…今日は出勤じゃないんだろ?何でいんだよ」


山下さんの目の前にあるトレーにはコーヒーだけが載っていた。今日はドーナツは食べないんだ。


「シフト書きに来ただけです」


「…あっそ」


流れる沈黙。店内に流れる有線と山下さんがコーヒーをすする音だけが聞こえる。


「あの、山下さんお仕事はされていないんですか?」


「俺はまだ学生だ」


あれ、春兄や木下さんと同い年じゃないの?


「…1年浪人していた。だからまだ学生」


私が思っている疑問を察したかのようにそう言った。


「そうなんですね。あと、私と連絡を取りたいってどういうことですか?」


言い方が嫌だったのか、聞かれたくないことだったのか、わかりやすく顔をしかめる山下さん。元々キツめの顔が更にキツくなる。



「は?お前気づいてねーの?」


「…はい?」


気づいていない?何をです?


「好きだからに決まってんだろ。鈍感ぶってんの?」


「はっ!?」


イートインスペースが広くてよかった。反対の方の隅に別のお客様が座っているが、私の声は届いていないみたい。


…というか、山下さん何て言った!?


「…何だよその反応」


「え、その好きってどういう…あ、あれですか?春兄の彼女だから興味あるっていう、好きですか!?」


「…いや、意味わかんねぇ。言葉になってねーし」


あくまでも冷静を保っている山下さんに、ラブの意味の好きに感じることはできない。


何を考えているのか全くわからない。



「私…春兄と付き合ってるんですよ?」


「知ってる」


「でも…その、好き、なんですか?」


「何度も言わせんな」


「な、何でですか!?てか、私たちつい最近会ったばかりじゃないですか!まともに会話をしたこともないし、どうして私なんですか!?」


好きになる要素もないし、そういう環境でもないはずだ。それにしても、彼氏がいるのに連絡先を渡したり好きとか言ってきたり、静かに積極的すぎる!!


「別に理由とかどうでもよくね?つーかさ、付き合ってんのに"春兄"とかって呼んでんの?」


「べ、別にいいじゃないですか。春兄は無理に呼び方変えなくてもいいって言ってくれました」


あの時は少し我儘な春兄になって色々要求されたけれど…あのちょっぴり甘い時間をこんな時に思い出してしまい、少し赤くなった。
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