10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
「…幸せボケした顔すっげームカつく」


ボソっと呟いた山下さんだが、その声はしっかりと私の耳に届いた。


「は?ムカつかれる筋合いありませんけど!」


気づけば私って山下さんと言い争いをしていることが多い。


「お前もう帰るの?」


「そうですけど。じゃ、ごゆっくり」


ここに長居するつもりはさらさらなかったからお店の扉の方へ早歩きで向かおうとしたのだが…


「おい待て」


ピタッと止まる足。低い声と上から目線のセリフに嫌な感じがする。


「な、何ですか」


山下さんはトレーを返却口に持って行き、私の元へと歩み寄る。ただそれだけの行為なのに迫力を感じた。


…近くに来ると圧がすごい。


すらっと伸びた手足、春兄よりかは華奢だが肩幅がしっかりある。


レジで接客をしている時は私が1段高いところにいるから、こうして平行になったところに並ぶのは初めてだった。


見下ろされている感が半端ない。



「…行くぞ」


「は?」


先に扉を開けた山下さん。目的語がないその言葉にハテナしか浮かばない。


「メシ、行くぞ」


「…は、はい!?」


な、何ですって!?どうして私が山下さんとご飯を食べに行かないといけないの!?



その場を動かないでいる私に山下さんからの冷たく鋭い視線と舌打ち。


「早くしろよ」


いやいや、どうして私は誘われちゃっている?そもそも彼氏がいることを知っているのに、どうしてここまで積極的になれる?


隙を見せないように春兄から言われたばかりだ。こんな状況でのこのこついて行くほど私も馬鹿ではない。


「結構です!帰ります!」


そう言って山下さんの横を通り過ぎようとしたが、腕をがっしりと掴まれる。


「…何で」


「な、何でって。私には春兄がいるんです。当然の判断じゃないですか」


私からしたら山下さんのその行動に"何で"と問いたいものだ。
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