10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
ゆっくりと立ち上がった春兄が近づいて来る。反射的に後ずさりする私の腕を強く掴み、首筋に顔を埋めた。


そう、あの時山下さんにされたのと同じように。


「はっ春兄!!」


春兄の片手が腰に回され、強く抱き寄せられた。密着する体、そして回された手が下の方へと移っていく。


個室での出来事がフラッシュバックし、私は思い切り春兄の体を押し返してしまった。



「い、いやっ!!!」


呆然と立ち尽くす春兄、そして自分のしてしまった行為の大きさにようやく気付いた私。


私…春兄を拒絶したの?大好きな春兄を?


「藍…」


「あ、ごめっ…違くて」


決して春兄が嫌なわけではない。山下さんにされた嫌な記憶とそれを覚えていた私の体が無意識に反応してしまったのだ。


「春兄、ごめんね?これは違うの」


押し返してしまった春兄に近づき必死に弁解しようとするが、春兄は何か思いつめたような顔をした。


「は、春兄?」


「…結局、俺だけだったのかな」


「え?」


交わった目線、春兄の顔は悲嘆に溢れていた。



「結局、好きなのは俺だけだったのかな」


その言葉に頭が真っ白になった。"そんなことない"そう言いたかったのに、言葉が喉を通らない。



春兄を傷つけてしまった。



一番したくなかったことが起きてしまった。その事実にスッと全身の力が抜けていく。



「は…春兄?」


「ごめん、今日は帰ってくれないか」


「え?」


「…ちょっと頭冷やしたい」


私の目を見ることなくそう告げられた。何も言うことはできず、重い足取りで部屋から出ていく。


春兄が追いかけて来ることはなく、帰る途中何度も振り向いたがその姿はなかった。



…絶対、春兄に嫌われた。



隠すなんて馬鹿なことして、バレそうになったら誤魔化して、挙げ句の果てには春兄を拒絶して。


最低だ、私。本当に、最低だ。


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