10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
山下さんに会ったらどうしよう…と不安に思いながら何度もバイトに向かうが、あれから山下さんがやって来ることはなかった。
そりゃそうか、逆にあんなことをしておいてノコノコと顔を出せたら神経が図太すぎる。
「鵜崎さん、私製造のサポート入るから、レジの方よろしくね」
「わかりました!」
今日も講義終わりに出勤。買い物帰りの主婦や帰宅途中の学生が多い時間帯。
仕事にもだいぶ慣れた私は一通りの作業をなんとか一人でこなせるようになった。
「お願いしま〜す」
袋や箱を補充している私の頭の上からお客様の声がする。
聞いたことがある声だ…と思いながら立ち上がると、目の前の人物にあっと驚いた。
「木下さん!お久しぶりです」
「よっ!」
人懐っこい笑みを浮かべる木下さん。本当に山下さんと友達なのか…というくらい正反対の外見だ。
「最近来てくれなかったですね」
トレーに乗ったドーナツをレジ打ちするが、何も返さない木下さんを不思議に思ってレジ画面から目線を木下さんに移した。
「…山下と何かあった?」
「え?な、何でですか?」
わかりやすく動揺してしまう。いつもヘラヘラしてそうな木下さんの鋭いツッコミに内心焦った。
「…いや、実はさ、あいつが藍ちゃんのこと気に入ってんのは知ってたんだ。感情を表に出さないタイプだけど、付き合い長いからなんとなくわかってた。でも藍ちゃんは竹内と付き合ってるから手は出すなって忠告したんだけどさ、つい最近あいつからの連絡で、"約束守れなかった"って言ってきたんだ。問い詰めても何も言わないから詳しいことは知らないんだけどさ」
木下さんが山下さんにそう言ってくれていたことは山下さん本人から聞いたから知っていた。
山下さんの言う"守れなかった約束"とは、きっと個室でのあの出来事のことだ。
もしかして、それを聞くためにここへ??
「…あいつに、山下に何かされたのか?」
並んでいるお客様がいないことを確かめて、急いで会計を済ませてイートインスペースに促した。
私に無理やり座らされる形で腰を下ろす木下さん。
再び辺りを見回したあとに小声で話し始める。
「じ、実は…」
春兄の友達で、山下さんの友達でもある彼に話す方が一番良いのかもしれない。そう思った私は一連の出来事を包み隠さず全て話した。
割り込むことなく真剣な顔で話を聞いてくれる木下さんに感情が高ぶり涙腺が緩んでしまった。
「…それで、今春兄に避けられてて。新社会人で大変な春兄に余計なことを考えて欲しくなくて必死になっていたのが間違いでした」
「…そっか。あいつがそんなこと。ごめんな、怖かったろ?」
顔を歪めて頭を下げる木下さん。私のために、そして友達のために自分が頭を下げることができるなんて、人思いなんだろうなと思った。