10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
ふと前を見ると、向こうから異彩なオーラを放つよく知る人物が歩いて来た。


「あ…」


目がばっちりと合い、向こうもこちらに気づいた様子。私の漏れた声に春兄も目線を移した。


「南…」


南さん、春兄の元カノだ。私は彼女と最悪の別れ方をして以来会っていなかった。


1年経ったし南さんのことを思い出すこともなかったけれど、久々に会っても相変わらずの圧倒的な存在感に肩が竦んだ。


南さんは私と春兄を交互に見る。チラッと目線が私たちの右手に移るのがわかった。


「うまくいったのね」


全てを察したかのようにそう言った。


「み、南さんも箱根に?」


「"も"ってことは、あなたたちも?記念日旅行とか何か?」


「は、はい、まぁそんなところで…」


「そう。よかったわね春人、ずっと好きだった子と付き合うことができて」


「なんか言い方に棘を感じるぞ」


笑顔ひとつ浮かべず刺々しく言葉を並べる南さんに、さすがの春兄も苦笑い。


「だって、二人ともうじうじしてて見ていてイライラしてたんだもの。でもまぁよかったわ、ちゃんとゴールインできて。で、ちゃんと恋人らしいこともしてるの?」


「へ!!??」


声を荒げたのは私。他に乗客もいる中でボリュームを下げることもなく平然と南さんは言った。


「何よ大きい声出しちゃって。私、変なこと言った?」


い、いや、変ではないのだけれど…


あぁ、恋愛慣れしている大人って怖い。


「藍にそんなこと聞くなよな」


「あら、エッチもしてなかったの?」


「!!」


感じる。周りの視線を感じる。


顔を下げて出来るだけ体を小さくした。



「南、もういいだろ?」


「…ま、頑張ってね」


ひらひらと手を振って通り過ぎていった。全く、嵐のような人だ…


「藍、もう大丈夫だぞ」


「う、うん」


南さんのさっきの言葉に、あの甘い夜を思い出した。当たり前のことに、顔が紅潮する。
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