10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
1時間ほど乗っただろうか、列車は目的地の箱根に到着した。ツンと冷たい風が頬を掠め、吐く息は霧のように白い。
「こっちの方が寒いね」
「そうだな」
春兄が予約してくれたのは同じ系列店の温泉が無料で使える旅館。天然温泉はもちろん、コーヒー風呂や緑茶風呂などユニークな温泉店舗も併設されており、温泉だけでも十分に楽しめるところだった。
旅館に行く途中、名産の蕎麦を食べ、これから温泉だということも忘れお腹がぽっこり出るくらい満たしてしまった。
フロントで受付を済ませ、ルームキーを借り、部屋に入る。二人部屋にしてはかなり広い。
「お食事は19時にお部屋へお持ち致します。温泉は本日は24時まで、翌日は7時からご利用いただけます」
女将さんの上品な喋り方と佇まいにうっとりしていると、頭上から春兄の手が降りてきた。
「あーい、ボーッとしない」
私の頭をふわりと包み込む春兄の大きな手。温もりを感じる。
「ボーッとなんてしてないもん。それより早く温泉入りたい!」
夕食までまだ4時間ほどある。広い温泉を楽しむには十分すぎる時間だ。
「そうだな、ゆっくりするか」
ここは混浴できるところもあり、カップルのお客さんも多いのだそう。私たちは準備されていた浴衣とタオルを持って部屋を出た。