10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
春兄、考えていたってこと?もしかして、今まで甘い雰囲気にならなかったのって、春兄が気遣ってそうしてくれていたのかな。


でも…していないのは営みだけではない。



「あ、でも藍は『我慢しなくていい』って言ってくれたっけ」


思い出したように意地悪なことを言う。


確かに言った、言ったけれど、それとこれとは話が違うのですよ!!


「あ、え!?いや、え!?」


「あははっ。冗談だよ、さすがにそれは我慢するから」


意地悪のレベルが付き合う前と比べてかなり上がった気がするのは気のせいだろうか。


「あ…うん、ごめんね」


すると春兄は大きな手で私の頭を包み込んだ。こうして頭を撫でてくれる瞬間が心地よくて大好きだ。


撫でられながら、ふとあることに気づく。


"我慢"…私たちは営みはもちろん、キスもしていない。それも我慢させている?


自分からこんなこと言うなんて恥ずかしさの頂点に立っているような気分にもなるけれど、聞くのは今しかないと思い、意を決した。



「キスは…我慢しなくてもいいからね」


頭を撫でる手がぴたっと動きを止める。下を向いている私の目には春兄の靴しか映らない。


というか、道で堂々と何を言っているんだ。今は人が全くいないからいいものを。


後悔の念に駆られていると、急に視界が真っ暗になった。同時に、体全体が温かみに包まれる。

気づけば私は春兄の腕の中。



「春兄…?」


「藍さ、自分が結構大胆なこと言ったって自覚、ある?」


頭の上から降ってくる春兄の甘い声には、いつも聞く優しさの中に艶やかさが含まれていた。


色っぽさに脈が激しく動く。


「最近藍はおかしい。急に煽るようなこと言い出すし、誰かに何か言われた?」


抱きしめられた状態のまま春兄は続ける。


「あ、いや別に…」


私が答えたところでパッと体が離れ、少し腰を屈めた春兄は片手で私の頬をむにゅっと掴んだ。


顔の肉が中心に寄せられ、不細工になっているであろう自分の顔を見られるのが恥ずかしくなり、必死に春兄の手を離そうとするも動かない。




そして、"それ"が起きたのは一瞬の出来事だった…




春兄の顔が離れていく。唇には感触が残り、思考は停止。



「キスは我慢しなくていいって言ったから」


笑いながら恥ずかしそうにそう言い、手を私の頬から離す。顔の肉が元あるべき場所に戻り、面構えも不細工ではなくなった…と思うが、ポカーンと口を開くこの顔も見れたものではないだろう。
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