10年愛してくれた君へ【続編】※おまけ更新中
「だーかーら!サプライズなの!さっきの私のセリフはただの建前!」


やっと状況を理解したようで、キョトンとした顔が少しずつ表情を帯びてくる。目尻を垂らし、私の大好きなあの優しい笑顔を向けてくれた。


「ありがとう藍。開けていいか?」


「どうぞ」


ラッピングを丁寧に外していく工程をドキドキしながら見守る。やがて姿を現したそれに春兄の目は一層輝いた。


「これずっと欲しかった時計!どうして藍が?ありがとうな本当に」


子供のようにはしゃぐ春兄を見るのはきっと初めてだろう。胸に愛おしさが増す。いつもの私たちと立場が逆転しているような感覚だ。春兄、いつもこういう気持ちだったのかな。




サプライズ大作戦は成功で幕を下ろした。春兄が連れて行きたいところがあると言っていたけれど、『サプライズの余韻に浸りたいから』と言ってその日は帰路に着いた。誰も見ていないところでお別れのキスをする。


唇を離し見上げた春兄の顔は、街灯に照らされはっきりと私の目に映った。妖艶で、けれども温かみのある優しい表情。どちらかともなくギュッと抱きしめ合う。



この幸せがずっと続けばいい…そう思っていた。


「…ずっと、離したくない。離したくのに」


頭の上から降ってくる春兄の小さな声。その言葉の内容を不思議に思い、少し体を離して春兄を見上げる。


「春兄?」


春兄は何も言わず微笑んだ。悲しみが含まれているような、そんな表情で…






< 71 / 83 >

この作品をシェア

pagetop