大切なもの【完結】
「郁人ー俺、好きだわ」


ジュースを飲み干して顔を上げたかと思うとそんなことを言いだす。


「は?俺、そんな趣味ないんだけど」

「ばーか。俺だってねぇよ」


翔が俺の頭を叩く。


「じゃあ誰がだよ」

「彩香」


翔の口はたしかに彩香って動いた。
でも聞き間違えかもしれない。
いや、そうであって欲しかった。


「あ、やか?」


俺はやっとのことでそう口にする。


「そう、彩香」


聞き間違えではなかったらしく。
無情にも翔が〝好きな人〟と
名前を口にしたのは、彩香で。
俺が好きな人に違いがなかった。


「...ふーん」


心の動揺を気づかれないように
平静を装う。

< 10 / 209 >

この作品をシェア

pagetop