大切なもの【完結】
「冗談だっつーの。彩香はそんなすぐ飽きたりしないしな」



少しいじめてみたくて。
俺の方が分かってる感を出してしまう。
こんなことをしても俺のところにくるわけではないのに。



『わかってる』



不貞腐れたような声の郁人に俺の心は満足する。
なにがしたいのか自分でもよくわからない。
でも、俺がめっちゃいたい位置にいるくせに自信なくしてる郁人にだったら俺にその位置くれよっていう感情でいっぱいになる。



「なら、俺んとこなんてくるわけねぇだろ。俺は振られたんだよ」


『ごめん』



バツが悪そうな声色を見せてくる郁人に少し気持ちが落ち着く。



「まぁ、不安になるのは仕方ねーよな。待ち合わせ場所間違ってんじゃねぇ?」


『そうかも。スマホの電源切れたかもな』



ただの憶測でしかない俺の言葉に安堵の声色になる。


ふと見上げると、信号から桜苗が走ってくるのがみえる。



「あ、桜苗来たからじゃあな」



気づいたら〝桜苗〟って口に出してた。
言いたくなかったはずなのに。

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