大切なもの【完結】
「ごめん、今のなし」


俺はそのまま廊下に出ようとする。



「翼!どこいくんだよ!」



翔が俺の肩を掴む。



「悪ぃ。いま話してる余裕とかねぇんだ」



翔の手を払って歩く。



「授業出ないわ」



それだけ言って廊下に出た。



だめだ。
いま、翔に優しい言葉とかかけられたくもないし、かと言って2人を壊すようなことはしたくないし。
誰のことも傷つけたくない。



〝幸せに〟そう言ってあげたいのに。
好きな人には幸せになってほしいのに。
なんで俺はその一言が言ってあげられないのだろうか。


桜苗が幸せならそれでいいはずだった。
でも、なんでついこの間まで他の女を好きだったやつと付き合ってんの?
それで桜苗は幸せになれんの?


幸せになれんなら、俺は何も言わない。
祝福する。
でも、桜苗が少しでも傷つくなら。

俺は、認めない……──


好きだから。
桜苗のこと。
大事だから。
桜苗のこと。

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