大切なもの【完結】
「香は大人だな」


「大人?」


「俺はこうやって逃げることしかできねぇもん」



理由は同じだけど。
香は郁人と彩香から逃げない。
カッコいいと思うよ。



「逃げたいよ。ほんとは」


「え?」


「ほんとは見るの辛い。でも、こうやって授業受けずに逃げて、2人に俺たちのせいでって思われるのが悔しいだけなの。だから、自分の意思の通り逃げれる翼が羨ましいよ」



絶対に俺より香のほうが正解なのに。
こんな俺のことを〝羨ましい〟なんて言う香。



「絶対香のほうが正しいだろ」



カッコイイと思う。
逃げることしか出来ない俺はどこまでも弱い。
ちっちゃな男なんだよな。


逃げたあとのこととかなんて一切考えてなかった。
とにかくあいつらを見ないで済むならそれでよかったんだ。



「ねぇ、余り物同士だね。あたしたち」



香が俺の顔をじーっと見る。



「そうだな」



大して気にも止めず香の発言に同意する。

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