大切なもの【完結】
「動揺しすぎだろ」



悠貴がぷっと吹き出す。

だめだ、俺。
彩香のことになると自分が自分じゃないみたいになる。



「だってそんな話1度も…」


「まずお前が彩香のこと知らないと思ってたもん。俺」



悠貴の言葉に中学の頃の自分を思い出す。
そう言えば俺、1度も彩香の話を振ったことがないような気がしてきた。
普通なら彩香と事が知りたくて幼なじみの悠貴に聞き出すんだろうけど、俺はそうすることで気持ちが知られるのが恥ずかしくて口にすることもできなかった。



「そういえば俺、1度も彩香の話をお前にしたことないよな」


「うん。ってか高校入ってからじゃねぇの?」


「いや、中学んときから」


「はぁ!?」



悠貴が心底驚いた顔になる。



「そんな驚く?」


「いや、中学んときとか俺らだいたい一緒にいたのにお前隠すの上手すぎ!」



あの頃は彩香の好きな人は悠貴、悠貴の好きな人な彩香だと思ってたから。
バレないようにするために一切口にしなかった名前。

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