大切なもの【完結】
「別にわざわざ洗わないでよかったのに」


「ううん。むしろクリーニングじゃなくて洗濯でごめんなさいって感じ」



俺がパン屋の角に着くとちょうど入口から彩香と四宮が出てくる。

自分の姿が見られないように角からこっそりと見る。



「そんなんいいんだよ。それよりほんとにバイト続けないの?」


「おばさんにも言われたけど、これ以上時間削っちゃうそろそろ嫌われそうだから」


「嫌われ…?」



たぶん俺のことを言ってるんだろう。
彩香は俺が放課後会えなくなって機嫌が悪いことに気づいてる。
それだけでなんだか嬉しくなる。



「ううん。あ、これ働かせてくれたお礼に焼いてきたの!」



四宮になにやらラッピングされたもの渡す。



「おっ!久しぶりだな。彩香のマドレーヌ」



俺はそんなもの食べたこともないのに四宮は〝久しぶり〟と言ってのける。
過ごしてきた時間の違いをおもいしらされる。

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