大切なもの【完結】
「だれか探してるの?」


香が俺の顔をのぞき込む。


「近ぇよ」


俺は香から離れる。


「えー、意識してんの?」


突き放せばまた追ってくる。


「してない。俺、好きな人いるから」


俺は香を見てそう言い放つ。


「...好きな人?」


香の目が光を失ったような色になる。


「香?」

「誰!?」


香が俺の肩を揺らす。


「この学校じゃない」


俺はまたここでも嘘をつく。


「中学?」

「そう、だな」


俺の頭にはどうしても1人しか浮かんでこなくて。


「どんな人?」

「可愛いよ。スッゲェ。柔らかい笑顔なんだ」

「ほんとに大好きなんだね」


香が静かにそう言う。

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