大切なもの【完結】
━━ピンポーン



まさかまたここに戻ってくるとは。
本日2度の彩香の家のチャイム。
今日1回目にチャイムを鳴らしたときはワクワクがたくさんだったのに、いまは不安しかない。


…彩香に嫌われちゃっていないか。
そうさせたのは自分なんだけど。



━━ガチャッ



ドアが開いて



「えっ…?」



驚いた顔をした彩香がそこに立っていた。



「ごめん、入ってもいい?」



自分でも情けないけど、震えたような声しか出せない。



「あ、うん」



彩香の返事に家の中へと足を踏み入れる。



━━バタンッ



とドアが閉まる音を合図に俺は彩香をぎゅっと抱きしめる。



「郁人?」


「ごめん。傷つけたよな」



彩香の目は赤くなっていたから、俺が帰った後に泣いたなんてことは安易に想像がついた。



「傷ついてなんか…」


「ごめん。俺自分が怖くなったんだ」



自分でも情けない。
でも、言い訳なんてするつもりもない。
ちゃんとありのままの自分を話したい。

< 192 / 209 >

この作品をシェア

pagetop