大切なもの【完結】
「お待たせー」



部屋のドアが開いて、彩香がケーキをテーブルの上に置く。



「これ、彩香が?」


「うん!」


「すげっ、うまそう」



彩香の作ったホールケーキは俺がだいすきなイチゴが沢山乗っていて、見るからに彩香の愛情がこもったケーキなんだなってわかる。



「ローソク立てたから消してよ」


「じゃあ、歌ってよ」


「え、恥ずかしいから流す」



用意してあったのか偶然か。
スマホからハッピーバースデーが流れだす。



「準備よすぎ」


「だって、歌うの恥ずかしいもん」



ほんとに恥ずかしそうに言う彩香に思わず笑みが零れる。
なんだろうな、この安心感。
彩香と一緒にいるとほんっとに心の底から安心できる。



「おめでとう、郁人。ほら消して」



3回目の〝おめでとう〟を言われ、ローソクを指される。



「ん。ありがとう」



ふぅっと息を吐けば、消えるローソクの火。

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