大切なもの【完結】
「たしかに。郁人なにもないのに言わなそうだよね」

「うん」

「香の気持ちはバレバレだったよね」

「たしかに」


あたしたちは顔を見合わせて笑う。


「郁人なりの気の使い方だよね」

「そうだね」

「香が気まずくならないように」


付き合えてないのに。
気を使ってもらえてる香が羨ましかった。

あたしはこのまんま
気持ちも知られないまま。


「郁人イイヤツだな」


桜苗が笑う。


「ずっといいヤツだよ」


あたしは聞こえないぐらいの声で言う。


彼はなにも理由なく
人のこと傷つけたりなんかしない。


中学の頃からみてきた記憶がある。

ずっと郁人しか見ていないから。
見るだけだったときから今でもずっと。
気持ちは変わらない。
きっとこれからも。

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