大切なもの【完結】
「...1度もない」


間違ってないはず。


「クラス離れてたしな」

「あたし1組で郁人6組だったよね」

「よく知ってんな」


郁人が嬉しそうにわらう。


「郁人のこと中学の頃から知ってたんだ」


翼が言う。


「うん。あたしの幼なじみと郁人が同じクラスだった」

「悠貴(ゆうき)だよな?」

「...うん」


はじめて郁人を知ったのは
悠貴のお母さんに頼まれた忘れ物を持っていったとき。

あのときに1度だけはなしたんだよね。
悠貴をよんでほしくて。


「俺、1度だけ彩香と話したよ?」


郁人がにっこり笑っていうから
あたしの胸は簡単に高鳴る。


「あ、悠貴呼んでって言ったとき」

「うん。あの時に彩香の事知ったから」

「あたしもだ」


同じタイミングで
お互いをはじめて知ったっていう共通点。

それだけですっごく嬉しいんだ。

覚えていてくれて。
それだけで充分。

< 4 / 209 >

この作品をシェア

pagetop