大切なもの【完結】
「なーんだ。つまんね」



あたしの手を離してベンチから立ち上がってそのまんま去っていく。



「郁人…」


「彩香、どこいたの?」



走ってきたみたいで郁人の肩が揺れている。

探してくれていたのかな。



「ごめん。電車で寝過ごしちゃって…」


「焦った。すごい心配した」


「ごめんね。スマホの充電し忘れてて…LINE返そうとしたら切れたの」



電源の切れたスマホを見せる。



「マジでよかったー。俺のことやっぱり好きじゃなくて来たくなくなったのかなとか色々考えてさ」



郁人が横に座ってあたしを抱きしめる。



「郁人を好きじゃなくなるなんて…」


「俺はいつだって不安なんだよ。彩香のことになると。最低にでもなるし」



あたしを抱きしめる腕に力が増す。



「最低?」


「彩香がやっぱり翔がいいとかなったんじゃないかって考えて、翔に電話してさ」



はぁっとため息をつく。

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