大切なもの【完結】
「郁人できるのー?」



絶対できないと思ってるような笑みで俺を見る。



「見ててみろよ」



腕まくりをして網を水の中に入れる。



「わっ!」



横から彩香の声。



「ほら、見たか?」



彩香の喜ぶ顔がみたくて柄にもなく張り切ってしまった。
すぐに金魚は手中にはまったのだ。



「郁人すごい!」



俺の腕にしがみつく。



「そんなことないよ」



腕にしがみつかれたぐらいで心臓の音がうるさい。
慣れてねぇな。俺。


それにしてもこんなことで喜んでくれるなら
何度だってすくってやるよ。



「喜んじゃって、彼女かわいいね」



〝彼女〟
その言葉に顔が緩む。
昨日からずっと緩みっぱなしで家では兄ちゃんにバカにされた。



「はい。俺の自慢の彼女です」



俺の言葉に横にいる彼女は顔を真っ赤にする。
その顔がかわいくて、またひとつ恋をする。

どんだけ俺を夢中にさせれば気が済むんだろ。

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