*Kissよりギュッと*
龍が私の前に回り込んで身を屈めた。

目線を同じにして、もう一度私を呼ぶ。

「……美夜」

至近距離から私を見る龍の眼が凄く切な気で、私はかぶりを振った。

「龍……龍、傷付かないで。あんなの、気にしないで」

傷付いてほしくない。龍は悪くないもん!

「そんな顔しないで、龍のそんな顔、見たくない」

「じゃあ、見えなくする」

「あ、」

本当に、龍の顔が見えなくなってしまった。

だって龍が私を引き寄せて、抱きしめたんだもの。

「龍……」

「……」

熱い龍の身体が頬に当たる。

トクントクンと鳴る龍の鼓動。

「泣かせてごめん」

「…龍のせいじゃないもん。ムカついて勝手に涙が出たんだもん」

龍の香りも体温もそれから鼓動も、何もかもが心地よかった。

やがてゆっくりと、龍が私に回していた腕を解く。

その途端、フワッと地面が浮いた。

ううん、今思うと地面が浮いたんじゃなくて、目眩だったんだ。

頭を誰かにグン、と押されたような感覚。

眼の前が真っ暗になった瞬間、気分が悪くなった。

ダメだ、なんか変。声もでない。

眼を開けているのに前が見えない。

「美夜?美夜!」

自分で立っているのか、龍に支えてもらっているのかどっちなんだろう。

…分かんない、考えられない。気分が悪くて……。

パタリとそこで、意識が途絶えた。
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