*Kissよりギュッと*
「行こーぜみんな」

明日斗と私を気にしながらも、友達たちはゆっくりと歩き出した。

それ以上は何も言えなかった。

だって、あと一言でも何か言ったら、明日斗に本気で嫌われそうな気がしたから。

眼のはしに、理沙たちのグループが柵に寄りかかりながら私と明日斗を見ているのが写った。

コソッとみんなで何か囁いているのも見えている。

明日斗達が屋上から消えていくのを見計らって、理沙は心配そうに私に駆け寄ってきた。

「美夜、大丈夫?!田村キレてなかった?!」

「……大したことないよ」

「……そ?」

「うん」

すごく惨めだ。

みんなきっと思ってる。

《美夜と明日斗はもう破局だよ》って。

私は頑張って理沙に微笑むと小さく手を振って屋上から出た。

はあーって溜め息をついた時だった。

「……お前、もうやめれば?」

ガタンとドアの閉まる重い音に被って、龍の声がした。

見下ろすと、壁にもたれていた龍が私を見上げる。

「バカみたいって思わねぇの?」

「ほっといてよ」

「報われねぇのに」

「うるさいなっ!」

私は一段飛ばしで階段を降りると、龍の脇をすり抜けた。

通りすぎて距離を開けて、それからようやく龍を振り返る。
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