*Kissよりギュッと*
そんな私から先輩は視線をそらすと、大きく息をはいて空を眺めた。

「実はあの後すぐ、違う人と付き合ったの。ほんの数日だったけど。そしたら……龍君がどれだけ私を大切にしてくれていたのか分かったの。それまでまるで気付いてなかったのに……勝手よね」

先輩は自嘲的に笑った。

「あなたが私にすごい剣幕で怒った時、正直ムカついたわ。でも……今は羨ましい」

……羨ましいという意味がよく分からなくて、私は何も言えないまま先輩を見つめた。

すると先輩はそんな私にクスリと笑った。

「私も……付き合ってる時にもっと龍君を知れば良かった」

そう言って眼を伏せた先輩が悲しそうに見える。

なんで……?

……龍は……どう答えたんだろう。

もしかして龍の返事は『ノー』だったの?

何も言えない私に、先輩が笑った。

「安心して。私フラれたから」

「っ!」

思わず息を飲む私に先輩はもう一度笑った。

「なに?その超驚いてるって顔は」

「だってその……先輩は凄く綺麗で頭もよくて、龍だって絶対、やり直したいって思ってると思って」

焦って言葉を返す私に、先輩がポカンとした。

それから何とも言えない優しい表情で、

「実はこうしてあなたと話をすべきか迷ってたんだけど……やっぱり話して良かったわ」

「……?」

何かが吹っ切れたかのように、先輩が爽やかに笑った。
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