それを虚構と言わないで
それを虚構と言わないで
お前のために未来から来たって言ったら、信じてくれる?
二十数年来の友人は無表情でそう口にした。
「いや、信じないよ」
「信じないのか」
「信じない、信じない。だって同じ年に生まれて、同じ小中学校に通って、大学で再会して。そんなこと自体珍しいのに、実家も隣で、アパートも隣だよ? そんな偶然を作りたくて過去に来たなら、馬鹿馬鹿しくて笑っちゃうよ」
「そうか、そんなものか」
ユウキは右手に持っていた紙カップをテーブルに置くと、隣の席に腰を下ろした。ちなみに今も偶然近所のコーヒーショップで出会わせて、外に面したカウンター席に二人で座っているわけだが。
「やっぱりフィクションはあくまでフィクションなんだな」
そう言って、コーヒーを一口。渋い顔をすることなく飲む。きっとディカフェのアメリカーノだ。お気に入りを把握するほど、ここでは出会わせていた。思えば、ユウキとは数え切れないほどの偶然をともにしている。一括りに偶然とは言えないものまで。
そう考えれば、彼が言うことも信じられるかもしれない。
私はキャラメルフラペチーノに刺さったストローを緩く動かし、勢いよく吸い込んだ。
「でも、どうして突然そんなことを言い出したの」
「いや、最近流行している作品を見ているとどれも同じものばかりで。未来からやって来ただの、反対に過去からやって来ただの。義理の兄妹だの、余命三ヶ月だの。じゃあ、実際ヒナに言ってみたら信じるのかどうか確かめたくなって」
「ふうん。まあ、私はそういうの信じないからね」
「早朝、曲がり角で男とぶつかっても」
「朝は起きないから」
「突然転校生がやって来たら」
「大学だから転入生でしょ。別に気にしないよ」
「本屋で同じ本を選んでも」
「運命の人が少女漫画を読んでくれたらいいけど」
あまりに淡々とした返事に気を悪くしたのか、ユウキはカップを人差し指で突いて遠ざけた。蓋の穴から漏れ出る湯気が衝撃に揺れる。そのまま髪を一筋引っ張ると、唇をぐっと噛んだ。
一体何だというのだ。
変な質問をしたのはそっちだというのに。
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