それを虚構と言わないで

 それにしてもユウキの髪は近頃伸びっぱなしだ。大学に入った途端、お洒落だとか言って茶色に染めたはいいが、ろくに手入れをしないものだから今も寝癖が立っている。私は長い方が好きだからいいけど。

「それで、検証した結果はどうなの」

「結果は明白だ。そして考察したところ、一つの説が浮かび上がった」

「ほほう。その説とは」

「その説とは」

 ユウキはまたコーヒーを一啜り。
 今度は渋い顔をして、躊躇いがちに口を開く。

「ヒナは二十数年来の友人とコーヒーショップで偶然会い、その日に交際を始める、はず」

「それってどういう過程を経たら浮かび上がるの」

 と突っ込んではみたものの、それ以上追求はしなかった。なぜなら、ユウキがまた髪を引っ張っていたから。それを見れば、よほど緊張していたのだと分かる。昔から変わらない、感情が読めないユウキの唯一の癖。
 私はフラペチーノを飲むと、両手を上に、身体を伸ばす。
 しょうがない、ここは折れてやるか。

「そうだな、最初から説明すると、」

「ユウキ」

「……何だ」

「お店、出よっか」

「……まだ説明の途中で」

「出よう。出たら、その後は」

 本屋にでも行こっか、と笑いかける。
 その意味を察したユウキは跳ねた髪を撫でつけ、カップを右手に持った。準備の早さだけは一人前だ。その背中を追って、私もフラペチーノを持って席を立つのだった。


「あ、さっきのフィクション、一つは事実だから」

「……え、それってどういうこと。どれが事実なの。あ、ちょっと待って。まだ鞄持ってないんだから」

 軽い足取りで店を出るユウキ。
 合わせているつもりで、操られているのは私の方かもしれない。

< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:3

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

運命は硝子の道の先に
相沢郁/著

総文字数/54,012

恋愛(純愛)57ページ

表紙を見る
美味しいものは半分こ
相沢郁/著

総文字数/1,521

恋愛(純愛)2ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop