それを虚構と言わないで
それにしてもユウキの髪は近頃伸びっぱなしだ。大学に入った途端、お洒落だとか言って茶色に染めたはいいが、ろくに手入れをしないものだから今も寝癖が立っている。私は長い方が好きだからいいけど。
「それで、検証した結果はどうなの」
「結果は明白だ。そして考察したところ、一つの説が浮かび上がった」
「ほほう。その説とは」
「その説とは」
ユウキはまたコーヒーを一啜り。
今度は渋い顔をして、躊躇いがちに口を開く。
「ヒナは二十数年来の友人とコーヒーショップで偶然会い、その日に交際を始める、はず」
「それってどういう過程を経たら浮かび上がるの」
と突っ込んではみたものの、それ以上追求はしなかった。なぜなら、ユウキがまた髪を引っ張っていたから。それを見れば、よほど緊張していたのだと分かる。昔から変わらない、感情が読めないユウキの唯一の癖。
私はフラペチーノを飲むと、両手を上に、身体を伸ばす。
しょうがない、ここは折れてやるか。
「そうだな、最初から説明すると、」
「ユウキ」
「……何だ」
「お店、出よっか」
「……まだ説明の途中で」
「出よう。出たら、その後は」
本屋にでも行こっか、と笑いかける。
その意味を察したユウキは跳ねた髪を撫でつけ、カップを右手に持った。準備の早さだけは一人前だ。その背中を追って、私もフラペチーノを持って席を立つのだった。
「あ、さっきのフィクション、一つは事実だから」
「……え、それってどういうこと。どれが事実なの。あ、ちょっと待って。まだ鞄持ってないんだから」
軽い足取りで店を出るユウキ。
合わせているつもりで、操られているのは私の方かもしれない。