【短】スウィートドーナッツ
ふと、先生の胸ポケットに赤ペンがないことに気付いた。
先生の相棒のように、いつも胸ポケットに入れられていた赤ペン。
いつでもどこでも、生徒から質問があると、胸ポケットからすっとそのペンを取り出して、丁寧に教えてくれる。
私は、先生に質問しに行っているのに、先生の解説なんか聞いてはいなかった。
『み~お~!聞いてんのかぁ? 今度の自習室、俺数学のプリント土産に持ってこっかなぁ~?』
そんなことを先生に言われても、私はずっと、赤ペンを握る先生の手を見てたっけ。
先生の赤ペンになりたい、って……。
「先生、これあげる!」
私はそんなことを思いながら、ペンケースの中の赤ペンを先生に差し出した。
先生は、一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐに笑顔になった。
かっこいいなぁ……なんて、つくづく思う。
「お、誕生日プレゼント? サンキュー! 美央の愛だと思って、大事に使うよ!」
そんな言葉をくれちゃう先生。
今日は、きっとドキドキして眠れない。
「誕生日おめでとう、先生!!」
大好きだよ。
この気持ちは本物。
だから、ゆっくり頑張るね。
少しでも、先生に『可愛い』って思ってもらえるように……。