【短】スウィートドーナッツ
「さっきね、沖田先生が私のところに来たの。このホットミルクティーと、手紙を持って。ここに立ち寄る時間なんかないはずなのに、来てくれたのよ。」
涙が、左目から一筋流れる。
そこからどんどん涙が溢れ、頬を伝い、流れ落ちてゆく。
私の脳裏に、息を切らしながら校舎に入ってくる、コート姿の先生が浮かぶ。
まるで、土曜日の私みたいに。
「それでね、私に言ったの。俺の一番大事な可愛い生徒が、もうすぐ来るって。きっと泣いてしまうだろうけれど、約束したから、これを渡して欲しいって。」
そう言って、女の先生は、私にホットミルクティーと手紙を渡した。
私はそれを力なく受け取ると、校舎を飛び出した。
冷たい風が、頬をうつ。
私は近くの電話ボックスに駆け込むと、その中で丸くなって泣いた。
ねぇ、先生。
どうして言ってくれなかったの。
行ってしまうのなら、どうしてこんな約束をしたの。
どうして、答案用紙を見てもいないのにミルクティーなんか置いていったの。
私、100点取ったんだよ。
ちゃんと見てよ。
先生が見てくれなきゃ、意味がないよ。
よくやったなって、頭撫でてよ。
先生嬉しいぞって、抱きしめてよ。
いっしょにミルクティー買いに行こうよ。
置いていかないで。
こんな気持ちを残したまま、置いていかないで。
また隣に来て、温かい手でこの涙を拭ってよ。
涙が止まらないよ。