干物ハニーと冷酷ダーリン
「だったら旅行に行く前に、やることやってからにしてください!それと中に入れて下さいよ!」
いつまで、ドア越しの会話してるつもりですか。こんな所、誰かに見られたらあたしが恥ずかしいじゃないですか。
『…俺はゆとり世代なんだ。中には入れないから帰れよ』
なんだそれは。ゆとり世代だからって許される事なんてあるわけないでしょ。
「あたしだって、ゆとりなんですよ!逃げて許されるなんてどの世代も通用しないんです!その前に中に入れてください!」
どうにかこうにか、部屋の中に入れてもらえたあたしは床に散らばっている原稿をかき集める。
なんだこれは。
原稿だと思っていたものには、沖縄旅行の計画が書かれていて、もはや旅のしおりになっていた。
「……先生、これはプロットですか?」
『そんなわけないだろ』
「なら、それはどこに?キャラ表は?ネームは?」
『………………』
「先生!今まで何やってたんですか!この状況で旅行なんて逃げるにも程がありますよ!」
『頭の中では出来てる』
「出来てるなら、原稿に写して下さいよ!それまであたしは、ここからテコでも動きませんからね!」
せめて、プロットとキャラ表が出来るまで先生を逃がしてたまるもんか。
逃げられないように、ドアの近くに椅子を置き先生の監視を始めた。
それを見て先生は、渋々原稿と向き合った。
ちらっと、部屋の片隅に目を向けると旅行鞄がコロンと転がっていた。