干物ハニーと冷酷ダーリン
『何でもいいが、さっさと帰れ』
「いや、でもまだ仕事が……」
久留米先生の原稿のチェックしないとだし、フェアの企画も営業部からあがってくるし、持ち込みされた作画の確認もあるし、とにかくやることは山程ある。
『何かあれば、連絡はする。移されても困るから早く帰れ』
「こ、困るって…………」
何もそんな言い方しなくとも、もっと別の言い方ってありませんかね?
泣きますよ、あたし。
『これ以上、病欠を増やしてみろ。休刊する騒ぎになりかねないだろ』
確かに。毎度の事ながら徹夜当たり前のギリギリ入稿常習犯のこの編集部だけあって、そうなってしまえば一気にアウトだ。
「はい、帰ります。直ちに帰ります。後はよろしくお願いします」
『……気をつけて帰れよ』
デスクに戻り、持ち帰って出来る仕事を一応鞄に詰め込む。
「黒崎さん、あたし帰るので高橋さんよろしくお願いします」
『やっぱり、具合悪いの?大丈夫?』
「お気になさらず、ではお先に失礼します」
出来るだけスピーディーに編集部を出たつもりだ。途中、床に置いてある月刊誌やら何やらに躓いたりしたけど、誰かしら片付けてくれるだろう。
休刊。それだけは何が何でも避けたい所だ。