干物ハニーと冷酷ダーリン
華散る
【水城禅side】
人間という生き物は、年齢性別問わずストレスというものが無意識であっても少なからず溜まっていくものだ。
その解消法は人それぞれ持ち合わせていると思うのだが、仕事でのストレスを上司にぶちまける奴はそうはいないだろうと思う。
それも本人が目の前にいるのに、堂々と愚痴るほどストレスが溜まっていたらしい。
ここぞとばかりに、酒の力を借りてなのか日頃の鬱憤を吐き捨てていく。
ここまで潔いといっそ清々しいものがある。
「水城さんは、そりゃあ敏腕編集長様ですからあたしなんて頭があがらないですけど、少女漫画の担当なんですから、もうちょっと現実の女の気持ちも分かってもらわないと困るんですよ!」
ドンっと中身が半分まで減ったジョッキをテーブルに置く川本かなで。
川本の豹変ぶりに、他のやつらは宴会場の端によって火の粉を被らないように避難していた。
こうなったのも全て黒崎のせいである。
中庭から戻ってきた川本は、黒崎に捕まる前に部屋に戻ろうとしていたが、高橋を人質に呆気なく捕まり散々アルコールを飲まされた。
結果、荒れた。
黒崎にああでもない、こうでもないと絡んでいる所を目にして川本も相当ストレスが溜まっていたんだな、と悠長に眺めていた。
そりゃ、男ばかりの仕事場。
抱えている仕事量も膨大のうえ、新人の指導。
ストレスが溜まらないほうが可笑しい話で、それを黒崎で発散できるのなら、これも副編集長の勤めだと大して気にも止めずにいた。
その行動を誰も止める奴もいなけりゃ、咎める奴もいない。
編集部では、宴会が開かれれば一種の恒例行事となりつつあるからだ。
今回は川本だっただけで、荒れる奴はその都度違う。