干物ハニーと冷酷ダーリン
1人荒れたら、他の奴は避難。
それが編集部宴会の鉄則だ。
ただそれを知らない新人、富井 滝 高橋は戸惑いながらも、三野や中林に端に寄せられ避難したようだった。
一方の黒崎は、荒れに荒れている川本に酔いも覚めたようで、必死に宥めていた。
そして、黒崎に飽きてきた川本はあろうことか俺の目の前にやってきたのだった。
「水城さんが女の子にも厳しいから、あたしに皺寄せがくるんですよ?確かに水城さん目的で入社してくる子が悪いんですけど、そのおかげであたし散々な事言われてたんですよ!」
『………………』
「何で私ばかり怒られて、川本さんには何も言わないんですか?川本さんと編集長は付き合ってるからですか?……………って!んなわけないじゃないですか!あたしだって、しこたま水城さんに怒鳴られまくりですよ!むしろ、それにすら慣れてきたくらいですよ!」
『……………………』
「編集長って川本さんにだけ甘い所ありますよね?何か弱味でも握ってるんですか?あ、寝たんですか?………………ですって!あんのクソ女。あの女の目は節穴か!どこ見て言ってんだ!寝て弱味を握れて甘やかしてくれるなら、とっくにやってますよ!そうなったら今頃仕事もしないで優雅に編集部でコーヒー飲んでますよ!」
『………………』
「それもこれも、ぜーんぶ水城さんが鬼だからいけないんです!女の子には優しくって小学校で習いませんでした?別に怒るなとは言いませんけど、言い方ってものがあるじゃないですか!」
『………………』
「水城さんにどやされ。女の子には憎まれ。久留米先生は期限に原稿あげてくれないし。あたしだって、踏んだり蹴ったりですよ!」
ひとしきり喋った後、残りの半分を飲み干しおかわりを要求した川本に黒崎が追加の生ビールをそっと差し出す。
それを見て、自分が言ったくせにもう飲めませんよーなんて言いながらまた飲み出した。
これ以上は危険だ。
川本がとてつもなくストレスが溜まっているのは充分理解した。
『……おい、川本。そのへんにしとけ』
これ以上飲ませたら、どうなるか分かったもんじゃない。
黒崎に水を持ってくるように言うと、すぐに運ばれてきた。