干物ハニーと冷酷ダーリン
会場を片し終わった編集者のあたしと黒崎さんにはもうやることが無く、あとは営業部の仕事だけなので先に出版社に引き上げようとしていた。
書店のスタッフや店長、副店長に挨拶を済ませ黒崎さんと歩く。
ここから、駅までそう遠くない。
『待って下さい!川本さん』
書店を出て数歩の所で、相崎さんに呼び止められた。
反射的に、黒崎さんの腕を掴む。
黒崎さんは、不思議そうにしながらも何も言わずにそのままにしていてくれた。
「どうかしましたか?何か忘れ物でもありましたか?」
相崎さんは、腕を捕まれている黒崎さんを気にしながらそっとあたしに手を伸ばす。
いかにも、黒崎さんが邪魔だと言いたげな顔をしていたけど、この手を放してなるものか。
掴む手にも力が入る。
「………これは、何ですか?」
なんて、聞かなくても見れば分かる。
だからこそ、掴む手に力を込めた。
『…連絡先です。………俺の』
「そういうのは、ちょっと、、、、」
こんな時に限って黒崎さんは空気を読んでくる。いつもは、空気を読まないくせに。
空気の読み違いなんですよ、黒崎さんは。
今、ここが空気を読んで空気を読まない所なのに、何静かに見守っちゃってるんですか。