干物ハニーと冷酷ダーリン
時間が経つにつれ残業組は、ぽつぽつと帰りだし、夜も更けた頃には黒崎さんとあたし。
そして、水城さんだけが残っていた。
なんだよ、皆。
こんなにサクサク帰っちゃって。
今の担当作家さんは、そんなに優秀なのかよ。
羨ましいじゃないか。
いつもギリギリのくせに、畜生。
久留米先生から送られ続ける原稿に、赤ペンで修正ポイントを書き込み、ましてやフェア後で疲労困憊なあたしは、もはや悪態しかつけないでいた。
デスクの上には役目を果たした栄養ドリンクが2本、缶コーヒーが5本並んでいる。
隣の黒崎さんのデスクには、何故かデスソースがあった。
何を血迷ったのか、眠気覚ましにそれを活用しているようだ。
時々、隣から唸り声が聞こえると思ったら黒崎さんが静かに足掻いていた。
バカにも程がある。ここまでくると天然だからでは流石にカバーが出来ない。
丸バカでしかない。
水城さんはというと、凄まじい勢いでキーボードを叩きまくっていた。
ちょっとしたサンドバックのよう。
何か恨み辛みがあるんだろうか、とにかく怖い。ただ怖い。迂闊に話しかければ特大な舌打ちが返ってきそうだ。
ついでに言うと、30分前程に好きなアーティストの曲を鼻歌で口ずさんでいたら、水城さんからパソコンメールで苦情がきた。
"うるせー。黙れ音痴。雑音を出すな"
瞬時に止めた。速攻で止めた。